遺 言 書
●遺言とは
遺言とは、亡くなった後その相続に関しての最終の意思表示のことをいいます。遺言を残すことで特定の人に相続 (遺贈)できるよう意思を伝えるものです。法的な効力はあるものの、必ずしも相続する人が守ってくれるとは限りませんが、無用な相続争いを防ぐ意味では有効と言えます。
遺言があったほうがいい場合は、次のようなことが考えられます。
・子供がいない夫婦
・・・配偶者と親または兄弟姉妹が相続人となってしまう。
・相続人の数が多い
・・・遺産分割協議が円満にできそうにない。面識のない相続人がいる。
・内縁の妻 (夫)がいる・・・戸籍上婚姻関係がなければ、相続人に
なれない。
・行方不明の相続人がいる・・・遺産分割協議ができない。
・独身で相続人がいない・・・相続人がいない場合最終的には国庫
に帰属してしまう。
・障害者等の家族のことが心配・・・誰が面倒を見ていくのか決め
る必要がある。
・先妻との子どもがいる・・・他の相続人と同様の相続分となって
しまう。
・認知した子どもがいる・・・他の相続人と同様の相続分となって
しまう。
・長男を会社の後継者にしたい・・・他の相続人と同様の相続分と
なってしまう。
などです。
遺言の作成にあたっては、法律で定められていますので、その効果を得るためには、法律に則った遺言を作成することが重要となってきます。例えば映像、音声などは遺言として認められていません。
1.普通方式
○自筆証書遺言
○公正証書遺言
○秘密証書遺言
2.特別方式
○死亡危急者の遺言
○伝染病隔離者の遺言
○在船者の遺言
○船舶遭難者の遺言
特別方式は極めて特殊な場合ですので、ここでは普通方式の遺言の作成について、ご紹介します。
(ア)自筆証書遺言
・遺言書の全文、作成日付及び遺言者氏名を、必ず遺言者が自書し押印したものでなければなりません。 (代筆、パソコン等不可)
・財産目録は自書でなくてもよいですが、この場合全てのベージに署名、押印しなければなりません。
・遺言書の所在を秘密にしていた場合、発見されないおそれがある。⇨法務省「法務局における自筆遺言書保管制度について」
・遺言書を発見した人等は、家庭裁判所に検認の申立てをする必要があります。→上記法務局 に保管すれば検認は不要です。
・法律上不備があれば、遺言者の意思が無効となる可能性がありますので、注意が必要です。
(イ)公正証書遺言
・公正証書遺言とは、公証人が遺言者の回述をもとに遺言書を作成して、その原本を公証人が保管するものです。
・公証人が作成した遺言書に、遺言者、証人、公証人が署名・押印することにより、公証役場に原本が保管されることから、公正証書として安全かつ確実な遺言書と言えます。
・口述の際には2名の証人が必要です。
※証人には、推定相続人、未成年者、公証人の配偶者・四親等内の親族などは資格がありませんので注意が必要です。
・準備する物
遺言者の印鑑証明書 (発効後3カ 月以内)、戸籍謄本 (遺言者と相続人との続柄がわかるもの)、住民票 (法定相続人以外に遺贈する場合)、法人の登記簿謄本
(法人に遺贈する場合)、財産特定のための登記簿謄本、固定資産評価証明書、預金通帳の写し、証人の住民票など。
・自筆証書遺言と違い、家庭裁判所への検認手続が不要となります。ただし、証人2名が必要なことなど、費用と手間はかかりますが、確実な遺言を作成することができます。
・遺言書の内容を誰にも知られずに、本人が公証役場で「間違いなく本人の遺言である」ことを証明してもらうものです。
・自筆証書遺言と同じく家庭裁判所の検認が必要なこと、公正証書遺言と同じく証人が2名必要なことを考えると、さほどメリットが大きいとは言い難いです。
このように検討していくと、手軽に遺言を書くことのできる自筆証書遺言、若しくは確実に遺言を書きたい、残したいと思えば公正証書遺言ということになるのではないでしょうか。
○相続に関すること
・相続分や遺産分割の方法の指定
・遺言執行者の指定や指定の委託
・推定相続人の排除や排除の取り消し
・遺産分割の禁止
○財産の処分に関すること
・遺贈や寄付行為、信託の設定に関すること
○身分に関すること
・子の認知
・未成年者の後見人、後見監督人の指定
○その他、付言事項
・自分の葬儀やお墓に関すること
・ペットの世話
・家族への感謝の気持ちや思い
遺言執行者とは、民法で規定されており、文字どおりその遺言に関して相続 (遺贈)等の手続きをする権限 (責任、義務)を有する者です。
遺言書で指定することができますが、指定されていない場合は相続人全員で執行するか、家庭裁判所に申立をし執行者を選任する必要があります。
○遺言の執行手順
1.遺言者の財産目録を作る
2.相続人の相続割合、遺産の分配を実行する。
3.相続財産の不法占用者に対して明け渡しや移転の請求をする。
4.遺贈財産の受遺者に遺産を引渡す。
5.認知の届出をする。
6.相続人排除、排除の取り消しを家庭裁判所に申立てる。
※遺言執行者への報酬は、遺言で記載がない場合、執行者が家庭裁判所に申立てを行い決定することとなります。
相 続 手 続 き
●相続人の調査
亡くなられた方 (被相続人)の、相続人を特定する必要があります。原則被相続人の出生から死亡までの戸籍を収集し、法定相続人の現戸籍及び住民票又は戸籍の附票 (被相続人の死亡時にすでに除籍になっていれば、法定相続人の現戸籍での同一性が確認できるもの)が必要となってきます。
1.法定相続人
・第一順位・・被相続人に子がある場合には、配偶者と子が共同相
続人となる。(子が被相続人の死亡以前に死亡し、直系
卑属がいる場合は、その者に代わって代襲で相続す
る)
配偶者:2分の1、子:2分の1(昭和56年1月1日以降)
・第二順位・・被相続人に子 (代襲相続人)がいない場合には、配偶
者と直系尊属 (父母等で親等が近い者が優先)が共同相
続人となる。
配偶者:3分の2、直系尊属:3分の1(昭和56年1月1日以
降)
・第三順位・・被相続人に子 (代襲相続人)も直系尊属もいない場合
には、配偶者と 兄弟姉妹が共同相続人となる。(兄弟
姉妹が被相続人の死亡以前に死亡し、子がいる場合
は、その者に代わって代襲で相続する。)
配偶者:4分の3、兄弟姉妹:4分の1(昭和56年1月 1日
以降)
2.相続放薬
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から、3カ月以内に家庭裁判所に相続の放棄を申述することができ、受理されれば当該放棄者は初めから相続人とならなかったものとみなされます。
3.限定承認
プラス財産とマイナス財産がある場合に、プラス財産を超えるマイナス財産を相続しないという方法です。相続人の総意により、相続の開始があったことを知った時から、3カ月以内に家庭裁判所に限定承認の申述審判申立を行うことができます。財産管理人が選任され精算手続きがされることとなります。どうしても相続したい財産がある時などに有効ですが、手続きが複雑ですので専門家への相談をお勧めします。
4.相続権の喪失
民法891条に該当する行為 (被相続人の生命の侵害、遺言に関する不当干渉等)があった場合には、相続欠格者となります。
民法 892条 に基づき、被相続人は生前において、家庭裁判所の審判を受けることによって、相続人から排除することができます。(戸籍にも記載されることとなります。)
5.特別受益者
共同相続人中にあるものが、被相続人から既に相続分以上の生前贈与を受けている場合、証明することにより特別受益者となります。
◎法定相続情報証明制度 平成29年5月 29日から運用
法定相続人が誰であるかを、法務局に必要書類を提出し、登記官が証明する制度です。この制度を利用することにより、相続登記や預金の払戻しや相続税の申告など複数の場面での戸籍書類―式の提出が省略できます。
亡くなられた方 (被相続人)が残した財産を調査する必要があります。財産には不動産、現金、預貯金、有価証券等のプラスの財産と借金、連帯保証債務、ローン等のマイナスの財産があります。
1.不動産 (土地・建物)及び不動産に対する権利
固定資産税納付書・権利証により確認します。不動産所在地の市町村で名寄帳、固定資産評価証明書を調査し、法務局において登記簿等を調査することにより、正確な財産の把握が可能です。
2.現金、預貯金
現金、預貯金については、まずはご親族からの聞き取りにより把握することとなります。どの銀行に回座があるかわからないときは、可能性のある金融機関に問い合わせ等する必要があります。
3.有価証券等
有価証券等についても、これまでの通知文書の有無などにより、ご親族からの間き取りにより把握することとなります。場合によっては、証券会社等に証明書の発行を依頼する必要があります。
4.マイナスの財産 (借金等)
契約書、通知書等がある場合は、その内容について把握することとなります。ない場合には、個人信用情報機関に情報開示の請求をすることも可能です。
・上記のとおり、正確に財産を調査し財産目録を作成します。これにより、遺産分割協議が円滑に進められることとなります。
・特に事業者の場合マイナスの財産については、借入金、買掛金、保証債務などに注意が必要です。
・またマイナス財産が多い場合、相続放棄、限定承認の判断は相続開始を知ってから、3カ月以内にしなければならないので早急に調査する必要があります。
遺産分割協議は、法定相続人全員の合意が必要です。一人でも同意しない場合は成立しないこととなります。全員の合意が得られた場合には、それに基づき遺産分割協議書の作成を行います。
・現物分割・・相続人が個別の財産について相続する。
・換価分割・・対象となる財産を売却し現金を分割する。
・代償分割・・個別の財産を相続する代わりに、相当する金額を支払う。
○遺産分割協議が不調に終わった場合
家庭裁判所に調停の申立てをする必要があります。調停委員による当事者の主張に対してのアドバイスによって、合意を目指すものです。
調停が不調に終わった場合は、自動的に審判に移行することとなり、裁判官による審判が下されます。
審判に異議がある場合は、高等裁判所に不服申立 (即時抗告)することができます。